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ベトナムの住宅に玄関はあるのか

ベンチェの住宅

ベトナム人の家に招かれて、いつも困るのが「靴を脱ぐ場所」です。 日本のように玄関開けたら、半畳ほどの土間があって、そこで靴を脱ぐ、そして靴を揃える。 という習慣はベトナムにはありません。 ベトナムどころか、他の国にも「日本の玄関」がある住宅はありません。 欧米は土足の文化だし、ベトナムや中国の素足文化は日本の素足文化とは根本的に異なるためです。 そもそも、「玄関」という概念自体が日本以外の国には見られないように思います。筆者は他の国の住宅についてはそれほど詳しいわけではないので、今回はベトナムの玄関について考えていきます。

ベトナム住宅の玄関

ビンズンの住宅

ビンズンの住宅

これは、妻の実家の住宅の玄関です。物々しい両開き扉、そしてその前に転がるサンダル。 そして、入ってすぐが客間です。廊下なんてありません。

「玄関開けたらすぐ客間。」
これは、ベトナムの住宅でほぼ共通している間取りです。 日本の住宅だとどうでしょうか。
「玄関開けたらまず廊下」ですよね。
さて、ほかの事例も見てみましょう

ベンチェの住宅

ベンチェの住宅

これは、ベトナム南部メコンデルタにある住宅です。義理の兄の実家です。 正面には2箇所の開き戸があります。昼間はすべての扉が開いていて開放的です。右から入っても左から入ってもOKです。 もはや玄関がどこなのかわかりませんね。
ちなみに、この家に客間はありません。
中に入るとベトナム住宅でよくみかける大きな床几(脚のついた台。マットレスのないベッドのようなもの)が3台置いてあります。
実はこの家、数年前に礎石造りの建物に建て替えられたばかりで、以前は涼し気な木造住宅でした。そして、床は土間で室内も土足で生活していました。
素足になるのは、床几の上でくつろぐときです。 土間+床几というライフスタイルは、ベトナムの田舎へ行けば未だによく見かけます。 そもそも、近代までベトナムの農民は、外へ出かけるときも素足で生活していました。(日本の農民も素足だったようです) 近代になって、家の床にツルツルピカピカの大理石やタイルが張られるようになり、少しずつ室内素足のライフスタイルになっていったようです。

タイビンの住宅

タイビンの住宅

これは、妻の田舎である北部タイビンの家です。 やはり扉が多いですね。寝るとき以外はいつも扉が空いていて、開放的な生活をしています。
この家では、室内土足での生活です。室内はサンダルつっかけて過ごしています。以前、酔っ払って寝て、起きたときにサンダルがなくて焦ったことがありました。
ちなみに、北部だから室内が土足、という意味ではなくて、土足か素足かは、石・タイル張りの有無によります。土足の床は、コンクリートもしくはゴツゴツ煉瓦張りの床もそうです。

ハノイの旧家保存館 煉瓦の床 すべての部屋が土足 奥に見える四角い台が床几

ハノイの旧家保存館 煉瓦の床 すべての部屋が土足 奥に見える四角い台が床几

そもそも、玄関って?

ここまで見てきたように、ベトナムには「日本的な玄関」はありません。 そもそも、玄関ってなんでしょうね? 「玄関」は仏教語のひとつらしいです。 「玄」は奥が深い悟りの境地を意味し、「関」は入り口を示しています。 二語を合わせた「玄関」は、玄妙な道に入る関門、仏道への入り口ということになります。
仏道といえば、ベトナムも敬虔な仏教徒の多い国です。ですが、ベトナムの玄関はあまり大事にされていない? というわけではなく、日本語の「玄関」という言葉が、本来の意味とずれていったようです。 仏教からきた言葉ということからもわかるように、玄関という言葉の生まれは中国。 日本では当初、「お寺の門」という意味で使われ、実際に書院造や禅寺の客殿などの出入り口がそう呼ばれていました。
しかし、今では「住宅」の入口周辺を意味することになっています。 ベトナムでは、「日本的な玄関」という概念がないのでしょう。
というか、日本の素足ライフスタイルは畳床があってのものです。「畳に土足で上がるなんてもっての外」ですが、ベトナムのような石・タイル張りの床なら、たまには土足で上がってもいいよね。となります。
なので、室内の土足・素足のライフスタイルも、家それぞれです。 地域的には、都会は室内素足傾向、田舎は土足の習慣が残る。
なので、まぁ家に招かれたときは、まわりの人に合わせて靴を脱げばよいかと思います。 ただしサンダルの場合は、知らない人に勝手にサンダルを履かれることがあります。マジです。

あなたの家の玄関の扉は内開き?

ついでに開き戸について書いておきます。 あなたの家の玄関の扉は内開きになっていますでしょうか?
セキュリティを考えると開き戸は内開きにするべきです。外開きの扉は、外側に丁番があるため、丁番を壊して扉を開けることができちゃいます。 ただ、内開きにすると玄関のスペースが狭くなるので、外開きの扉の家も多いはずです。籠城するにも泥棒対策にも内開きが鉄則です。 話が逸れますが引きこもり対策として、子供部屋は外開きにしておきましょう。外開きの扉ならいざ籠城されても、外側から無理くりこじ開けることができます。もしくは引き戸でもいいですね。引き戸なら漫画のように蹴破って入ることができます。
だけど、内開きの扉は、外側から蹴破って入ることなどできません。 もともと日本家屋は、ふすまや障子など引き戸タイプの扉が標準でした。住宅内に開戸が使われるようになったのは、近代化が始まってからです。 ちなみに、ベトナムの都心部は細長の町家型住宅が軒を連ねています。 間口は鉄の扉でもちろん内開きです。シャッターがついている家も多いです。 ベトナムの都市型住宅ではセキュリティ対策に重点がおかれた玄関なわけです。

ハノイ旧市街

ハノイ旧市街

最後に土足の話に戻ると、こういった町家タイプの住宅の場合、1階は土足、階段から素足パターンが多いです。バイク置き場が一階客間ですから。 土足と素足の境界線は家それぞれですので、お家に上がらせてもらうときは観察してみるのもいいですね。

筆者プロフィール:Koike Yusuke(デザイナー&マーケター)
木造建築士という建築知識をバックグラウンドに、ベトナム南部で家具のマーケティング・デザイン・商品開発をしています。ベトナム史が好きなので、ベトナム建築を古代から現代まで調べて、このブログで紹介しています。建築や家具、デザインはもちろん、ベトナム史やビジネスについて語り合える方募集しています。Twitterやインスタでお気軽にDMください。
資格:木造建築士 / カラーコーディネーター1級(商品色彩)
Twitter @yusukekoike21
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メール:amplestyle108★gmail.com(★を@に変換)

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