ベトナムの中部クアンナム省では、かつてチャンパ王国の王都チャキェウが栄えていました。
チャンパ王国はベトナムの南進により、王都を少しずつ南下し、その後国土を失ってしまいますが、
現在でもベトナム中部の海岸沿いにわたり、チャンパ王国時代に建てられた祠堂が遺跡として遺っています。
クアンナム省は、世界遺産にも指定されているミーソン遺跡があり、チャンパ遺跡巡回の地としては外せないエリアです。
今回は、クアンナム省に遺る5つのチャンパ遺跡を紹介します。それと、チャンパに興味がある方は、最後に紹介するダナンのチャンパ彫刻博物館も一緒にまわることをおすすめします。
▶チャンパ王国とは?
チャンパ王国が遺した世界遺産 ミーソン聖域の遺跡
ミーソン遺跡は、1999年に世界遺産に登録されました。。
マハーバルヴァタ山の麓という秘境ミーソンに初めてヒンドゥー教の祠堂が築かれたのは4世紀末。当時、チャンパの王都はダナン南西部にあり、「シンハプラ=獅子の都」と呼ばれていました。
4世紀末にバドラヴァルマン王によって建立された祠堂は木造であったらしいが現在は残っていません。
現存するレンガ造りのミーソン祠堂群は、いずれも8世紀から13世紀の間に歴代のチャンパ王によって建立され続けたもの。
すでに現存しないものを含めれば60の祠堂があったと言われています。
ミーソンの祠群はフランス極東学院の研究者アンリ・パルマンティエ氏の分類によって、A~Nのグループに分類されました。地図を拡大していけばGoogleマップでもグループの配置が確認することができます。
このうちB~DグループとAグループは、1937年から1944年にかけてフランス極東学院による大掛かりな修復が行われました。
ミーソンの祠堂群は、ほかのチャンパ遺跡と同様、シヴァ神の象徴としてのリンガをまつる主祠堂を中心に、それを取り囲むように建てられた幾つかの副祠堂や舟形屋根の宝物庫や清水庫、方形の碑文庫や長方形の矩形房と呼ばれる建物、さらにそれを取り囲む隔壁と塔門からなる伽藍構成を特徴とします。一つの伽藍単位をグループとして分けられました。
+古代様式(またはMy Son E1様式):7世紀-8世紀初頭(E1およびF1)
+ホアライ様式:8世紀-9世紀初頭(A2、C7、F3)
+ドンジュオン様式:9世紀から10世紀初頭(A10、A11、A13、B4)
+ミーソンA1様式:10世紀(A1、B2、B3、B5、B6、B8、C1、C2、C4、C5、C6、D1、D2、D4、E7)
+ポーナガル様式:11世紀(E4、F2)
+ビンディン様式:12–13世紀(B1、グループG、H、K … )
しかし、残念なことにAグループにあったミーソン祠堂建築の最高傑作と言われた28メートルの高さを誇った主祠堂が、アメリカ軍の空爆によって破壊されて無残な姿となってしまいます。
ベトナム戦争当時、ミーソン聖域は南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)の基地となっていたためです。
筆者が描き起こしたミーソン主祠堂A1 高さは28メートルだったという
ベトナム中部の人気観光地ダナンやホイアンからも近いことから、最近は多くの観光客が訪れる人気スポットとなっています。
人の行列について秘境の地へ入っていっても、聖域と言われる静寂を感じることができません。特にツアーに参加すると制限時間もあるため、慌ただしい訪問となるでしょう。
ミーソン聖域へは、ホイアンから現地ツアーが出ています。
かつては、ホイアンからでも3時間かかったらしいが、今では1時間〜1時間半で到着します。
ダナンからでも同じ程度の時間で行くことができます。
動画で観る ミーソン遺跡
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チェンダン遺跡 | Tháp Chăm Chiên Đàn
栴檀(センダン)を意味する名を付けられた11〜12世紀のチャンパ遺跡
チェンダンとは「栴檀」を意味するサンスクリット語を漢訳し、さらにベトナム語に置き換え「チェンダン」と名付けされたそうです。
栴檀は古くからベトナムの輸出品の一つでした。栴檀の実は、外用薬や鎮痛剤として用いられました。
3塔からなるチェンダン遺跡は、11世紀から12世紀に渡って建てられました。
南塔から建設がはじまり、次に中央塔そして北塔の順に建設されたとされています。
チェンダン遺跡の特徴としては、砂岩に施された彫刻です。
基壇周辺には、戦闘を繰り広げる兵士や、音楽を演奏したり、ダンスを踊る人々、蓮の花と戯れる二匹の象などが刻まれています。
また、身舎(もや)や屋蓋にはガルーダやガネーシャ、ナーガなど空想上の動物が飾られています。
チェンダン遺跡へ訪れたときは、どこにどんな彫刻があるか探してみてください。
動画で観るチェンダン遺跡
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クォンミー遺跡|Tháp Chăm Khương Mỹ
クォンミーはチャンパ王国の繁栄の最盛期を代表する重要な遺跡であり、チャンパ建築の傑作といわれています。
豊富で多様な装飾様式からは、チャムの人々がレンガ壁に彫刻を施す特技を持っていたことがわかります。
建築の独創性の他に、クォンミーは多くの重要な彫像作品を遺しており、現在はチャンパ彫刻博物館でその遺品を観ることができます。
動画で観るクォンミー遺跡
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バンアン遺跡|Tháp Bằng An
チャンパ建築にはほとんど見られれない八角形の構成をした建築。
また、前房入口に三つの扉があるのが特徴的な遺跡です。
祠堂内には、小さなリンガ(シヴァの化身=男根の象徴)が祀られていますが、バンアン遺跡自体が大きなリンガとして作られたように思います。
動画で観るバンアン遺跡
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ドンジュオン仏教寺院遺跡|Phật viện Đồng Dương
様式:ドンジュオン様式
建設年代:9世紀
指定:考古芸術建築遺跡(特別国家級遺跡)
現在は、碑文庫の開口部が補強されて遺されているのみのドンジュオン遺跡です。
しかし、かつては、ボロブドゥール遺跡にも引けを取らないほどの大乗仏教寺院があったと言われます。
その規模は、東西に1.3kmもの敷地に建てられていました。
本当に残念なことに、長い戦禍の中で寺院のほぼ全体が破壊されてしまい、今ではその跡形がほとんど遺されていません。
東南アジア最大級の仏教寺院があったとはとても想像できない状態です。
ドンジュオン寺院平面図
ドンジュオンだけがチャンパ遺跡唯一の大乗仏教寺院とも言われます。当時は、東南アジア島嶼部において大乗仏教が流行していました。
残された碑文には、インドラヴァルマンⅡ世が仏陀のために建設したと書かれており、内部には仏陀の座像が祀られていました。この座像はダナンのチャム彫刻博物館で見ることができます。像そのものも、どことなく中国的な雰囲気を持っているそうです。
ほとんどの遺跡が遺されていないのは、宗教的な理由もあるかもしれません。
チャンパにおいて仏教の興隆はこの時期のみに限定されています。時代が変わり、多数派のヒンドゥー教徒によって仏像・寺院を破壊されたという説もあります。
どちらにせよ、すでに東南アジア最大級と言われた仏教寺院は跡形もなく、門のようにそびえるレンガ積みの遺構が鉄の補強に支えられて頼りなく建っているという遺跡になってしまいました。
かつてのドンジュオン寺院
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ホイアンから40キロほど南にありますが、ツアーなどで行ける場所でないので、自分で車を手配する必要であります。
樹林の中にある遺跡のため公道から見つけることは出来ません。
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チャンパ彫刻博物館|Bảo tàng Điêu khắc Chăm Đà Nẵng
華麗なチャンパ彫刻が並ぶ
ダナンは、チャンパ王国の前身「林邑」とよばれた国が最初に起こった地です。
実際には、ダナンの彫刻博物館から南へ約40km、小高い丘の上にあるチャキェウ(Trà Kiệu)に最初のシンハプラという都市がありました。このチャキェウ王都跡では多くの彫刻が発掘されて、このダナン彫刻博物館に展示されています。
19世紀、フランスの研究者たちがチャンパの遺跡を発見した際には、遺跡全体に彫刻作品が散乱していました。当時のベトナム人にとって、チャンパ遺跡は異国の文化ですから、それを保存しようなどと考えもしませんでした。
フランス人たちは、この美しいいチャンパ彫刻を保存するために、フランス極東学院の支援によって博物館計画します。1915年に建設開始して、1919年に完成しました。
チャンパ彫刻は、砂岩を刻みさまざまな種類の神像を多く残しています。細長い眼、厚い唇、豊満な胸、愛嬌のあるしぐさなどがかもし出す素朴で色っぽさがあるのが特徴です。クメールやジャワの影響をうけつつも、チャンパ彫刻は独特の優雅さをもちます。
1946年抗仏戦争中にこの博物館が略奪にあい、その後150点ほどは収集されましたが、未だ戻らないものもあります。ベトナム戦争中、そして統一後も何度か盗難に合いそうになっています。
それだけ、展示の彫刻品は美しく優雅で価値があるものということです。
ダナンに訪れた際は、是非こちらの彫刻博物館へ足を伸ばしてください。ミーソン遺跡を訪れる前にみておくと、ミーソン遺跡での感動が増すのでおすすめです。
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筆者プロフィール:Koike Yusuke(デザイナー&マーケター)
木造建築士という建築知識をバックグラウンドに、ベトナム南部で家具のマーケティング・デザイン・商品開発をしています。ベトナム史が好きなので、ベトナム建築を古代から現代まで調べて、このブログで紹介しています。建築や家具、デザインはもちろん、ベトナム史やビジネスについて語り合える方募集しています。Twitterやインスタでお気軽にDMください。
資格:木造建築士 / カラーコーディネーター1級(商品色彩)
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