どうして多くの建築家が椅子に魅了されるのか 椅子は小さな建築

建築家は椅子をデザインしたがる?

モダニズムの巨匠たちは、美しい椅子をデザインし、いまでも多くの人々に愛されている椅子やソファがあります。
コルビュジェやミース、ライトなどのモダニズムの巨匠はみな美しい椅子をデザインしています。

以下の椅子は、どこかで見たことがあるはずです。
どうして建築家が椅子をデザインするのでしょうか。

ル・コルビュジエのLC4シェーズロング

ル・コルビュジエのLC4シェーズロング

ミースのバルセロナチェア

ミースのバルセロナチェア

 

椅子の特徴

椅子には、大きくわけると2つの特徴があります。

  1. デザイン性
  2. 快適性(機能性・強度・品質も含む)

このどちらかが欠けているといい椅子とはいえません。
しかし、デザイン性も快適性も良い椅子というのにはなかなか出会えません。

1.椅子のデザイン性

椅子はデザインをしすぎてると、自己主張が強くなり、置く場所を選ぶ椅子になってしまいます。
逆にシンプルすぎても、他の椅子と同じようになってしまい、デザイン性というものを感じられません。

建築家が椅子をデザインする場合は、すでに置く場所が決まっており、その空間に合わせたデザインをします。
たとえば、フランク・ロイド・ライトの帝国ホテルにあった椅子、これはすごく特徴的な椅子ですが、この場所にはすごくマッチしています。

帝国ホテルの椅子

帝国ホテルロビーにある椅子(筆者が明治村で撮影)

しかし、この椅子を現代の住宅に持ってきても、浮いてしまうでしょう。
この椅子を住宅に置くなら、それに合わせてインテリアコーディネートが必要になります。

現代の住宅設計では、建築士が設計しますが、家具を顧客が選ぶ場合も多いです。
あまり家具を知らない顧客が、趣味だけで家具を選んでくると、住宅と家具がミスマッチになる場合もあります。
特に椅子やソファは趣味だけで選ばずに、室内のデザインとマッチしているかを慎重に検討する必要があります。

ですので、素晴らしいデザインの椅子でも、インテリアとマッチしなければ、空間を台無しにすることになります。
だから意外と、場所を選ばないシンプルなデザインの椅子は売れます。

また、椅子をデザインしすぎると、もう一つの特徴である快適性を失われることもあります。
上のライトの椅子は、決して座り心地が良いとはいえません。

2.椅子の快適性

椅子の快適性を構成する要素は以下になります。

  • 座り心地
  • 機能性(回転、キャスター、収納、昇降、肘付きなどの機能)
  • 重量
  • 強度とメンテナンス性

「座り心地・機能」と「デザイン」は密接な関係があります。
座り心地がデザインに与える影響はもちろんありますが、機能が付くことによってある程度デザインが決まってしまいます。
座り心地と機能を活かして、デザインをまとめるのが、椅子のデザイナーの仕事になります。

重量やメンテナンス性は、デザインには影響しませんが、近年では主婦が椅子を購入するので、軽い椅子が選ばれる傾向があります。
また、座面がカバーリングで選択できるメンテナンス性があるものも需要が高いです。

椅子ひとつで場所が発生する。椅子は小さな建築

上にみたように、椅子は単純にデザインが良ければよいのではなくて、快適性を取り込みつつ、使われる場所を想定してデザインを起こさなければなりません。
建築家は、彼らのイメージする空間に一番合う椅子をデザインしました。

また、建築家の伊東豊雄が「椅子ひとつで場所が発生する」といっています。

伊東 豊雄 – 建築の仮設性

椅子が空間を作ってしまうのです。
それだけ、椅子には存在感があります。

そして、椅子をデザインすること自体が、建築を設計するのと同じ手順を踏みます。
椅子は「ちいさな建築」とも呼ばれています。

椅子は、人が座るので強度も必要です。
強度を強くするには、材料を太くすれば良いのですが、それだと野暮ったいデザインにしかなりません。
いかに強度を保って、理想のデザインに仕上げるか。

椅子の強度を意識するのは、構造的な思考を必要とする建築家にとっては当たり前の課題です。
建築家が椅子をデザインするのは、いたって自然な行為なわけです。

現代の建築家がつくった椅子

かつての建築家のように、建築家が建物から小物を含むインテリアをデザインしていた時代と違います。
現代、特に住宅においては、建築家が建物をデザインし、インテリアデザイナーやインテリアコーディネーターが内装をデザインするように分業化しています。
特に有名建築家は、デザインやプロポーション、話題性などを追求するため、使用する人のライフスタイルからかけ離れたデザイン提案をしているものが見受けられます。

デザインに特化しているため、椅子に必要な快適性や機能性を失っているものもあります。
モニュメントや彫刻を作るように椅子やソファをデザインしているため、「座ってみたい椅子」ではないのです。

むしろ、眺めるための椅子。
どうして彼らはこのような椅子をデザインするのでしょうか。

日本の建築家がデザインする椅子の特徴① 直線を多用する

建築で曲線を使うとコストが嵩むが、プロダクトなら低コストで曲線を再現出来ます。
しかし、建築デザイナーは曲線に対してマインドブロックがかかっていることように見受けられる方がいます。

日本の建築家もしくは、建築設計者によく見られる椅子が、直線だけで構成されている椅子です。
直線の多様は、モダニズムや日本の木造建築に由来しています。
また、日本の建築の場合、曲線を使うと建築コストが跳ね上がるため、よほどこだわった部分でないと曲線を使いません。
ですので、日本の建築家は曲線に慣れていません。

しかし、プロダクトは直線だけでデザインするとチープなデザインになりやすいです。
「直接と曲線のバランス」すこしでも崩れるとデザインはデザインでなくなります。
小さなモノほど難しく、ディテールに拘る必要があります。

プロダクトに不慣れで縁のない、日本の建築家は直線的なデザインをします。
直線はリズムや黄金比を使うことで、美しくデザインできますが、曲線の場合はもともとのデザインセンスや経験を必要とします。

日本の建築家がデザインする椅子の特徴② 空間からアプローチする

「椅子は人が座るものなので、座ったときの快適性や機能性が大事」
プロダクトデザイナーはそう考えます。

しかし建築家は、
「椅子は空間を構成する要素の一部」
と考えます。

そもそも、出発点が違います。
前者は、住宅で人がくつろぐための椅子
後者は、建築空間を引き立てるための椅子

プロダクトデザイナーと建築家の圧倒的な違いがこれです。

ここまで読まれて否定的な記事に思われるかもしれませんが、空間の専門家である建築家が椅子にアプローチすることも必要です。
プロダクトデザイナーとは違う目線でデザインをするので、エポック的な椅子が生まれることもあります。
しかし、「有名な建築家やデザイナーが椅子をデザインしたから売れる」と勘違いしてはいけません。
有名建築家に頼むのは、ブランディングや話題性を生むためと理解しましょう。

最後に、現代の海外建築家デザインのおもしろい椅子を紹介します。

海外建築家の奇抜な椅子

ザハ・ハディド

新国立競技場の設計で有名になったザハ・ハディドの椅子。
椅子というか、もうモニュメントです。
この方は、昔から流線型のデザインが得意ですね。
建築家ザハ・ハディドがデザインした スゴイ『椅子』

フランク・O・ゲーリー

ッゲンハイム美術館などで有名なゲーリーの椅子。
この椅子はダンボールで作られており、実用性はあるものの、ダンボール製で92,000円と高額な椅子です。
ゲーリー好きでなければ、コスパの悪い椅子だと思います。

段ボールを使ったユニークなフォルムが特徴的な「Wiggle Side Chair」

ダニエル・リベスキンド

ベルリンにあるユダヤ博物館で有名なダニエル・リベスキンドのアームチェア。
この椅子は、デザイン性のみでなく、座ってみたい衝動にかられますね。
曲線でなく、直線で立体性を表現したのは建築家らしいデザインです。

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