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VIFA ベトナム国際家具展示会からみるベトナム製家具の変遷

いま、日本で売られている多くの家具がベトナムで生産されているのはご存知だろうか。ニトリやイケアの食卓セットやタンスなどの箱物は、中国製と同じくらいベトナム製が出回っている。
「ベトナム製」と聞くと、「アジアン家具」を想像する方もいるかもしれない。
ところが、実際にはモダン家具やカジュアル、アンティーク調の家具まで多種多様な家具がベトナムで生産されておいる。
わかりやすい話としては、ニトリの自社工場がハノイにある。ニトリで売られているタンスやソファの多くはここの工場で生産されている。さらにベトナム南部にもニトリの第二工場がオープンする。

どうして、いまベトナムで多くの家具が生産されているのだろうか。

ベトナムで家具を生産する理由

ベトナムは住宅こそ鉄筋コンクリートとレンガ積み建てられているが、家具は木製家具を好んで使われている。
かつてのベトナムは木材が豊富で、紫檀や白檀を使った家具がたくさん生産されていたが、いまベトナムで採れる木材は、ゴムの木かアカシアの木がほとんど。
とくにゴムの木が家具によく使われている。フランス植民地時代にフランスがゴムの原料を取るために、大量にゴムの木を植林したため。
家具小売店で売られている10万円以下の食卓セットは、ゴムの木で作られているものばかり。ゴムの木は、加工性がよく強度もそれなりにあるので、家具として生産しやすいのが特徴。

ベトナムで家具を生産する3つの理由

  • 家具に使う木材が豊富に取れる
  • それなりに安い賃金
  • フランスや中国が持ち込んだ木の家具を作る技術がある

しかし、ベトナムの賃金については、毎年10~15%ずつ上昇しており、あと10年もすれば、決して「安い賃金」とは言えなくなる。

VIFA ベトナム国際家具展示会

毎年3月にベトナム国際家具展示会VIFA「VIETNAM INTERNATIONAL FURNITURE& HOME ACCESSORIES FAIR」なるものが、ホーチミン市7区のSECCという展示会場にて行われている。
ちょうどこの時期、メーカー勤務の僕は来客が増えてなかなか展示会場に足を運べず、ここ4~5年の間、展示会を見に行けていなかった。
しかし、今年はたまたま休みと展示会が重なったので、行くことができた。
今回の展示会場の様子と今後のベトナムの家具業界についてお伝えしたいと思う。

上に書いたように、ベトナムの最低賃金は毎年上昇している。2017年の賃金は、僕がベトナムに住みはじめた2010年から比べて、2倍近くの賃金になっています。
実際に、かつての日本の高度経済成長期は同じような状態で、僕達の親世代だと、「数年後に給料が2倍になった」というのは珍しくないよう。その代わり物価も上昇しているので、賃金が上がったからといって、生活が楽になるわけではない。

さて、ベトナム家具国際展示会について。
僕が、その前に展示会場へいったのは2012年だったと思う。
その頃から比較すると今年2017年の展示会は全く別物になっていた。

どうして、こんなに変わったのか。

それは、「ベトナムはもう安さを売りに出来ないから」。

賃金が上がれば、材料代も上がる。
そうなれば、それを価格に反映するしかない。
安さを売りに大量生産してきた工場も危機感を覚えたらしく、とにかく「ブランド化」しようという必死さが会場から伝わってきた。

5年前とは違う点

  • 出店数が倍以上になって、外会場までできていた。
  • ベトナム以外からの材料サプライヤーが増えた。
  • 展示ブースに必ずヨーロッパ人のデザイナーがいる。
  • 中東からもバイヤーが来ていた

特に注目したいのが、北欧系デザイナーとのコラボ。
デザイナーを入れることで、いままで野暮ったかったベトナム家具が、かなりスタイリッシュになってきた。
木製家具だけでなく、スチールなどの異素材と組み合わせた家具が増えていた印象。
そして、「NO PHOTO」のサイン
5年前は、どのブースも似たような家具が並んでいて、メーカーの違いはあまりわからなかった。
しかし、今年はどのブースもデザイナーが入っていて、それぞれ「ブランド化」「差別化」が進んでいた。
どのブースも「NO PHOTO」のサインがあった。
この記事でも画像をアップしたかったが、写真撮影は諦めた。

そして、5年前よりベトナム家具のレベルが全体的に上がっている。
安さだけを売りにできなくなり高付加価値と斬新的なデザインの家具が増えている。このように危機感を感じている工場は今後も伸びてゆくだろう。
しかし、元国営工場や大手企業傘下の工場は、旧態依然の体質を変えられず、仕事が減っていく、という2極化になりそう。実際には、ベトナムにはこの展示会場に出店していない家具工場が山のようにある。

そして、ベトナム国内に目を向けると、家具のライフスタイルも2極化している。

中華様式と欧米のライフスタイルという2極化

ホーチミンやハノイなどの、都心では新築マンションが続々と建ち上がっている。ベトナムの都心は、まさにマンションの建設ラッシュ。そのマンションに住むベトナム人は、モダンな欧米式の家具を取り入れたライフスタイルを好む人が増えている。

逆に、地方で新築戸建てを建てる人々は、中華様式の木製家具を好んで使う。
地方では、総革のソファよりも、木製でゴツゴツした大柄の椅子のほうがステータスになる。
ベトナムでは、まだまだ中華様式の家具の人気が根強いのが事実。

ベトナム人の好む赤い木製家具

そういう状況で、「展示会場にならんでいた北欧デザイナー家具はベトナムで売れるか」というと、欧米のライフスタイルを好む層にしか売れない。
こう考えると、この展示会はベトナムでの流行りを追っているものではなくて、海外の流行りをそれなりに追っていることがわかる。

ベトナム製家具の課題

今回のベトナム展示会場は5年前から比べて、かなりの変わりよう。
ヨーロッパのデザイナーが多く入ってきたことで、垢抜けて来た感じはある。
しかし、デザイナー自身が感じているはずだが、ベトナムの家具はディテールが弱い。ゴッツイデザインは良いのだが、軽やかさを出したいデザインでも、材が太く使われていたりするので、繊細さを感じることができない。
ディテールを表現するのは工場の技術。しかし、その技術がまだまだ低いの実情。

そして、世界にベトナム家具を普及していくにあたっては、人々のが安心して使用できる安全性を確保するための、品質管理体制の構築が必要となる。
それは、デザイナーをいれて解決できることではないので、工場の経営者が違うアプローチで工場を変えていく努力をしなければならない。

デザイナーが入り垢抜けた家具を作っても、すぐに壊れたり使えなくなったりするなら、商品としては成立しない。
それは、展示会場を見ただけではわからない裏の部分。
そこをしっかりできる工場が、今後生き残っていくのは間違いないだろう。

About

筆者プロフィール:Koike Yusuke(デザイナー&マーケター)
木造建築士という建築知識をバックグラウンドに、ベトナム南部で家具のマーケティング・デザイン・商品開発をしています。ベトナム史が好きなので、ベトナム建築を古代から現代まで調べてます。建築や家具、デザイン、マーケティングはもちろん、ベトナム史やビジネスについて当ブログにまとめています。また、これらのテーマについて前向きに語り合える方募集しています。Twitterやインスタでお気軽にDMください。
資格:木造建築士 / カラーコーディネーター1級(商品色彩)
Twitter @yusukekoike21
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メール:amplestyle108★gmail.com(★を@に変換)

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